貴腐ワインの原料となる貴腐ぶどうは、ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)と呼ばれる特殊なカビの一種がぶどうに付着することでできます。白ぶどうの薄い皮にこの菌がつくと、菌糸が果皮を覆うワックス層に無数の小さな穴を空け、そこから果実の水分が蒸発します。
この作用によって果汁成分が濃縮され、干しぶどうのような高糖度のぶどうになるのです。
ただし、ボトリティス・シネレア菌は完熟した果実に付着しないと、ぶどうを腐敗させる原因にもなります。事実、世界中に分布しているこの菌は、白ぶどう以外にも野菜や豆などに感染する灰色カビ病の原因菌でもあるのです。
ソーテルヌが世界に冠たる貴腐ワイン産地となった背景には、この地の自然条件が大きく関係しています。ぶどうが熟す9~10月にかけ、ガロンヌ川支流のシロン川は水温が低く、暖かいガロンヌ川と合流する地点ではそれぞれの川の温度差による朝霧が発生します。
ソーテルヌのぶどう畑は午前中にこの霧に覆われては、午後の陽射しによって温められて乾燥することをを繰り返します。世界でも希少なこの自然が、貴腐ワイン造りに欠かせない環境なのです。
貴腐ぶどうの濃縮された果汁は30~40%もの糖分を含んでいます。そのため、ワイン造りにおいて発酵が起きにくく、発酵が途中で止まってしまうこともあります。その結果、ワイン中に大量の糖分が残され、甘美なまでの極甘ワインとなるのです。
貴腐ワインの誕生はまさに、いくつもの奇跡的な条件が重なった大自然の恩恵ともいえます。
ちなみに“貴腐”の名は、腐敗したようなぶどうの外見からは想像もつかない芳醇な香りと風味のワインが生まれることから、三大産地各地の言葉でそれぞれ“高貴なる腐敗”と呼ばれたことに由来しています。